東京高等裁判所 昭和38年(ラ)247号 決定
本件記録によれば、本件強制競売の目的物件については陸王交通株式会社の株式会社平和相互銀行に対する元本極度額七千万円及びこれに対する利息日歩三銭四厘以内損害金五銭の債務につき根抵当権が設定せられているのに対し右物件の評価額は金二千五百九十万円であるため、原裁判所は右物件の所有者である抗告人の代理人青柳盛雄に対し昭和三十八年一月三十日到達の通知書を以て民事訴訟法第六百五十六条第一項所定の通知をなしたところ、抗告人は同条第二項所定の手続をしないので、同年三月十九日本件強制競売手続を取り消し、本件競売申立を却下する旨の決定をなしたものであることが認められる。
抗告人は、民事訴訟法第六百五十六条は申立債権者に優先する担保権者が競売物件以外に共同担保物件をもつている場合には当該競売物件の価額のみによつて決すべきものではないと主張し、本件記録添付の登記簿謄本(記録第三二丁)によれば、本件物件が他の土地及び建物とともに前記債務の共同担保とされているものであることはこれを認めることができる。
しかし、共同抵当は数個の不動産を一括し、その全部の担保価値を把握しそのいずれからでも自由に優先弁済を受けることができるものであり、たゞ抵当権実行のためにその全部について一括競売の申立がなされた場合において、共同抵当物件中のある不動産の売得金のみで債権全額を弁済するに十分と認められるときは裁判所は民事訴訟法第六百七十五条を準用して他の不動産の競売を許さないことができるに過ぎない。そうであるから、強制競売の目的物件が共同抵当の目的とされている場合であつても、裁判所は当該物件の最低競売価額をもつて被担保債権及び手続の費用を弁済して剰余がある見込がない場合においては、同法第六百五十六条所定の手続をなすに妨げがないものというべきである。右の場合もし申立債権者がその負担及び手続の費用を弁済してなお剰余を生ずる見込があるものとするならば申立債権者において同条第二項所定の手続をなすべきものであつて、裁判所は他の共同抵当物件の内容、価額等を職権をもつて調査すべき義務はないものといわなければならない。
(伊藤 杉山 山本一)